2018/02/22

ひんやりふわり

ジジジジジジジジジ……

「お待たせ!」
コンビニのドアが開く音がして、背中をぽんと叩かれた。
「ああ…」
「チキンなかったー。前の人が買ってったので最後やって」
「そっか、残念やったね」
「まあアイスが溶けるけんよかったわ。何見とるん」
私は誘蛾灯を指した。
2匹の蛾が青いライトの周りを飛び回っている。
「うえっ、虫嫌いなん知っとるくせに」
「知っとる。でもなんか可哀想やない」
「そう? ヨリの感覚はたまにわからんわ。昔からやけど」
「集まってきても何も良いことないのにさ」
「そりゃまあね。アイス溶けるけん帰るよ」

「夜はやっぱ涼しいね」
「うちがおかしいだけよ。西日がひどいわ」
「遮光カーテンにすりゃいいのに」
「したいけどさー。もしかしたら今年度で引っ越すかもしれんのよね」
「まじ?」
「まじ」
「なんで」
「うちの職場さ、2年ごとで勤務先店舗変わるんよ。今までたまたま近所やったんやけど、さすがに次は市外やと思う」
「市外やったら今の部屋からじゃ遠いね」
「今みたいに泊めたりとか出来んかもしれんわ」
「いや、ごめんね、ありがとうございますよ、ほんとに」
「いいのいいの、別に1泊2泊かまわんって」
「明後日は仕事やろ」
「うん。布団しまっとってくれるなら明日も泊まっていいのに」
「そこまで迷惑かけられんわ」
「まあそっちも仕事あるもんね」
「……」
「てか、なんでさっきビール買わんかったん。いっつもうちで飲んどるのに」
「ユッカ飲まんじゃん」
「この前まで遠慮せず飲んどったのによく言うよ」
「…気分やない」
「カズなんちゃら君となんかあったん」
「別れた」
「ふぇっ?」
「今回は失恋旅行みたいなもん」
「あらあらあら」

そうこうして話している内に、ユッカの部屋に帰ってきた。
鍵を開けて
「ただいま」
「ただいまー、おかえりー」
声音を変えてユッカが二役を演じる。
「なんか嬉しそう」
「たまにはおかえりって言いたいじゃん」
「そうかねー」
「うちが泊まりに行ったらヨリも言えばいいやん、おかえりーって」
「そういやユッカがうちに来たことないね」
「どうせ都合あわんやろうなーって思うけん最初っからあてにせんもん。大体旅行とかめんどい。いっただっきまーす!」
「なんか私が世話になってばっかりやん、申し訳ない。いただきます」
「別に気にしとらんし、うちは楽しいけんいいけど。ゆーて2回目やろ、うち来るの」
「泊まるのはね。年明けに来た時とかも日中ずっと居座ってしまったし」
「ああ、倉田の眼鏡でツボったやつね」
「あれは何度思い出しても笑うわ。割れたけんってテープで直そうって発想がまずないし、なんでガムテ貼ったーって」
「前見えんくなるってなんで気づかんかったかね」
「セロテープがなかったけんやろ」
「いやわからんわ」
「まあ一番ウケるのはその後コンタクトになったってことやけど」
「顔が薄いけん違和感あったよねー」
「でもあだ名はー」
「ガムテ」
ひとしきり二人で笑い合う。
「これ全然食べれんのやけど」
「そりゃあそれ氷だもん。あ、垂れそう」
「ふきんあるよ」
「ああ~、ティッシュない?」
「ほれ、ふきんでいいよー」
「ありがとん」
「うわ懐い。どいたまん」
「あったねー、どいたまん。なんか恥ずかしいわ。ありがとんはいいけど、どいたまは"ん"を付ける意味がわからん」
「対になってるだけやろ」
「流行らんかったね」
「あれ中学の時だっけ」
「そうそう」
「中学って14、5歳? ってことは12年くらいになるわけ? 年取るはずだわ」
「26は年取ったとは言わんやろ」
「うちはもう27やし」
「そうやった。やっぱ年取ったかねー。ビール飲も、ビール」
「あんた買わんかったやん」



***○。***○。***○。***○。


どこに着地したかったのかもわからない1時間半の習作。
もっと閉鎖的な主人公とその友だちを描こうとしたのですが、掛け合いを書くことに傾注してしまいました。
こうだったら面白いのにという方向にしたらキャラがしゃべりだして収拾がつかなくなりました。
尻切れトンボの未完みたいな終わり方ですが、エネルギー切れかつ続きを作る予定はありません。
地の文が少ないのはあえて戯曲風にしたかったためです。
昔、方言の戯曲を書きたかったこともあったので、こんな形を試しました。

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