2018/01/30

エルネア王国の日々 192年24日まで その2

※プレイヤーキャラ視点の一人称小説という体です。
ほかの方のオスキツ国初期住民とイメージが違ってもご容赦ください。



 192年5日
 今日は初めての公式試合の日だ。
 相手の情報は集めているが、圧倒的にあたしが優れているのはチカラだけだ。
 それに威力の点では相手の方が良い武器を持っているから互角かもしれない。
 先手を取っても、半端な削り方では必殺技を出される可能性が高くなる。
 だけど、今は考えても仕方がない。
 寝る前に武器も僅かだが強いものを調達して強化できたのだ。
 信じて向かうしかない。
 幸い試合は夕方なので、朝の内に深い森より奥にある魔獣の森に足を伸ばす。
 アイテムでかなり固めて挑むと、存外すんなりと奥地まで踏破してしまった。
 挑む前と後で成長ぶりも自分で実感できるほどだ。
 お陰で安心して試合に臨み、白星を上げることができた。
 相手のセルジュ・フィンクも、あたしが相手の必殺技に耐えたのには驚いていた。
 「妻には新婚早々残念な報告をしなきゃならないけど、応援させてもらうね。
  絶対に優勝して騎士になってよ」
 その言葉にハッとした。勝者には勝者の責任がある。
 勝った数だけ期待を背負って真面目に戦わなければならない。
 でも、と思う。もしかしたら勝てたのは、ホセの応援があったからかもしれない。
 試合の前に彼を見かけたのだ。
 今日は麦の収穫だから忙しいはずなのに、あたしを気遣ってくれた。
 「スカーレットさんが勝てるように応援してるよ」
 その時からあたしは期待を背負っていた。
 ふと思い返せば、勝てるようにと応援されるのは初めてだったと気づく。
 貴族の娘に勝敗を決するような嗜みは似合わないからだ。
 多少の剣術を教えてくれた師でも、あたしが人と剣を交えることは嫌った。
 仕込まれた剣術はただ型が優雅なだけのものだと後から知った。
 また森を探索しながらあたしは様々なことを思った。
 この気持ちを伝えたい。でも、どうすれば伝わるのだろう。
 「ジゼル、今日の試合、勝ったんだ」
 「おめでとう! 応援に行けなくてごめんなさい」
 「ううん、気持ちだけで嬉しい。ところで、ホセさんが試合前に――」
 事のあらましを話すとジゼルの目がキラキラした。
 「ホセさんってこの前の男の子でしょ? 応援してくれたなんて素敵じゃない」
 「うん、だからお礼をしたいんだ」
 「食事にでも誘ってみたら? あ、いい考えがあるわ!」
 「何?」
 「料理を作ってあげるのよ。男は女の手料理に憧れるものだから」
 彼女は事も無げにそう言った。
 自分では思いもよらなかった答えに感謝しつつ、彼女と別れた。

 192年6日
 朝になっても、昨日のジゼルの言葉がまだ頭を埋め尽くしていた。
 それでもいむいむパンを食べて探索を始めると思考が整理される気がした。
 料理を作るのはいい考えかもしれない。
 でも、彼はどんな料理が好きだろうか、嫌いなものはあるだろうか。
 休憩を挟むために森から出ると、目の前にホセが現れた。
 「やっぱり、ここに来てたんだ」
 あたしを見つけた途端に笑顔になる彼を見てドキッとする。
 「探索はどう、順調?」
 「うん。あ、昨日の試合…」
 「勝ったんでしょ? 聞いたよ、おめでとう」
 「ありがとう。ホセさんの応援のおかげよ」
 「それは光栄だなあ。ねえ、その内何か食べに行ったりしない?」
 「えっ?」
 思いがけない言葉に思わず聞き返す。
 「無理にとは言わないけど、嫌だった?」
 「ううん。うれしい、楽しみにしてる」
 あたしから何かしようと思っていたのに、逆に誘われてしまった。
 このままで行かせるわけにはいかないと思い、慌てて持ち物を探る。
 「いむいむパンあるんだけど、食べる?」
 「ごめん、朝ご飯食べすぎちゃってお腹空いてないんだ」
 「そう…」
 「ほんとにごめんね。気持ちは嬉しいよ」
 途端に雰囲気がぎこちなくなってしまった。
 「僕そろそろ行かなきゃ。午後も探索続けるの?」
 「そのつもり」
 「がんばってね」
 そう言い残して、彼は去っていった。
 その後も探索を続けたが、敵を弱く感じられるようになるだけだった。
 明日、職業体験服でゲーナの森に挑戦してみよう。

 192年7日
 ウィアラさんからもらったレシピの通りエンツの香草グリルを作った。
 酒場に持っていくととても喜んでくれた。
 「一人暮らしだし自炊ができると楽よ。
  レシピブックを1冊あげるから、腕を磨くといいわよ」
 昨日の決意を無駄にしないようにゲーナの森にやってきた。
 今まで挑戦してきた場所の最奥部でも、こんなに暗い場所はなかった。
 気を引き締め、アイテムを確認する。できる用意はすべてしたつもりだ。
 ふとジゼルに会いたいと思った。
 こんな不安な気持ちも、彼女は明るく優しく包んでくれる。
 探索は最初の内は順調に見えた。
 しかし、奥に進むにつれ魔物は格段に強くなった。
 魔獣の森の最奥にいたレベルの魔物がわらわらと現れる。
 道半ばで引き返すことにした。
 回復アイテムも用意した数の半分以上を持っていかれてしまった。
 その代わりとは言えないが、技を新しく身につけることはできた。
 もう一度潜りたかったけれど、今日はもう魔獣の森に向かうしかないだろう。
 気づけば昼近くなっていた。
 お昼にするか迷っていると「ロスさん」と声をかけられた。
 「あれ、山岳兵に就職でもしたのか?」
 同年代の山岳兵、ブラウン・ブロサールだ。
 ドルム山道で何回か顔を合わせたことがある。
 山岳兵に就職というのはおそらく山岳ジョークというやつだろう。
 国民が山岳兵になるのは山岳兵の長子と結婚した場合だけだと聞いたことがある。
 「あなたでもそんな冗談を言うんだ。
  大体、これ着て山岳兵体験してみたらって言ったのはブロサールさんだし」
 頑固そうなのに意外だった。
 「冗談っていうか、決まり文句みたいなものだからな。
  ところで、ロスさんと友だちになりたいんだけど」
 「えっ、もしかしてそれを言うためにここに来たの?」
 「別にそれだけってわけじゃないさ」
 「そう。でも言ってくれて嬉しい。これからもよろしく」
 「オレの方こそ」
 友だちが増えるのは悪い気がしない。
 今のタイミングならなおさら、暗い気分が一気に吹っ切れて晴れやかだ。
 昼食の前にその足で魔獣の森を一巡りできたほどだ。
 辺りがすっかり暗くなるまで、あたしは魔獣の森に潜り続けた。
 その内、剣での修練は一つの区切りを迎えたと感じるようになった。
 騎士になるつもりなら剣を極めたいところだが、それだけでは動きの幅が狭まる。
 どんな状況にも柔軟に対応するには、あらゆる能力が必須だ。
 そう考えて明日からの探索の用意を整える。
 できる用意をすべて済ました時、今日交わした会話の断片を思いだした。
 「明日は収穫祭だね」
 そう言ったのは誰だったか。
 そう、明日はこの国での初めてのイベントで、色々と見物してみたいのだ。
 次に本格的に探索に時間を割くのは明後日からになりそうだ。

*****

改めまして、紅月です。
初試合は相手の必殺技を耐えきってわたしも驚きました。
得物を扱えるが、騎士を志すわりに技量はないことへの理屈付けや、山岳ジョークなるものも出現しました。
飛躍し過ぎかとも思いましたが、こういう裏付けをするのが楽しくなってきたあたりです。
ほかの方のプレイ記録で話が膨らんでいるのを不思議に思っていたのが、いつのまにか同じことをやっていました。

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