2018/01/31

エルネア王国の日々 192年24日まで その3

※プレイヤーキャラ視点の一人称小説という体です。
ほかの方のオスキツ国初期住民とイメージが違ってもご容赦ください。



 192年8日
 朝起きてすぐに料理に精を出す。
 しかし、コロコロフライを作ってから、今日は酒場でマトラが出されると気づいた。
 せっかく作ったが、今日だけはウィアラさんの料理が優先だ。
 早起きしたのは料理のためだけではなくて、朝2刻からの豊穣の祈りを見るためだ。
 前年の星の日に選ばれたエナの子たちが神からの言葉を民に伝える儀式である。
 まずはウィアラさんの酒場でマトラ定食をいただいて腹ごなしをする。
 宿には数人の旅人が来ており、一人は年齢が近いそうだ。
 あたしも旅人だったし馬が合いそうだと、ウィアラさんに紹介されて話をする。
 カティ・ティラドスという名のしっかりした感じの女性で、すぐに親しくなった。
 「今から豊穣の祈りを見に行こうと思うんだけど、一緒に行く?」
 「ちょっと準備が間に合いそうにないなあ。スカーレットは行ってきなよ」
 早朝のシズニ神殿はひっそりとして、いつにも増して神聖な感じがした。
 儀式の時間が近づくと人が瞬く間に集まり、儀式は始まった。
 エナの子たちは、王や各組織の代表たちの前でも堂々と自信に満ちていた。
 あたしはそれを美しいと思った。
 豊穣の祈りが終わると、神殿の中も釣り大会の話で持ちきりになった。
 どこに陣取るか訊きあったり連れを誘ったり、その様は本当ににぎやかだ。
 あたしもマトラファイターを買ってエルネア波止場で釣ることにした。
 波止場は交通の要であるため、多くの人が行き交う様子も眺められる。
 山岳のロナーティ家の一人息子ドミンゴが市場の方角から通りすがる。
 「ロナーティさん、豊穣だけじゃなく天気にも恵まれましたね」
 「そうだね、すっかり釣り日和ってところか」
 彼はあたしの手元を見てそう言った。
 しかし、釣っても釣ってもそこそこの大きさのマトラしか掛からない。
 季節や時間帯によって大物がかかりやすい場所があると聞いたことがある。
 それを探すために色々な場所で釣ってみることにした。
 場所変えはよい気分転換にもなる。
 それにホセや、少し年上のマルチェロ・フェティとも会った。
 特にホセはいつだってあたしを見ると笑顔になって声をかけてくれる。
 「いい獲物は釣れた?」
 「まだまだ。ホセは参加するの?」
 「うん、今年こそ大物を釣ってみせるよ」
 「がんばって」
 「お互いにね」
 それでも成果は芳しくなく、一度ドルムの坑道を探索することにした。
 坑道の脇道から旧時代の坑道跡をひと通り巡って、また山の麓や森の方面に向かう。
 納品の締め切りまであと2刻ほどだ。
 木造橋のたもとで釣り糸を垂らし、獲物がかかるのを待った。
 するとまもなく、今までに見たことのない大きな魚影が浮かんだ。
 慎重にタイミングを合わせて竿を引く。
 獲物はひとしきり暴れたあと、あたしの腕に飛び込んだ。
 キングマトラだ。
 あたしは慌てて近くの納品所に抱えていき計量してもらった。
 納品の担当者はにっこりと微笑んで言った。
 「今の時点であなたのマトラが最大ですよ。
  名前を教えてください、記入しますから」
 まだ昼3刻だから、さらに大物を釣る人がいるかもしれないとは思った。
 でも、盗み見た他の記録からすると、あたしのは飛び抜けている。
 それだけでもすごく嬉しくて、マトラファイターがなくなるまで上機嫌で釣った。
 釣り大会の表彰式にはかなり多くの国民が顔を出していた。
 「優勝は305ノサを釣り上げたスカーレット・ロス!」
 あたしの顔も見たことがないはずの人たちが盛大な拍手を送ってくれた。
 「賞金と高級釣り餌、そして釣り名人の称号を与えます」
 「光栄です、ありがとうございます」
 こうして釣り大会は終わった。
 それはあたしにとって心置きなく探索ができることを意味していた。
 斧を背負い、あたしはドルム坑道に向かった。

 192年9日
 今朝はエンツのムニエルを作った。
 自分の朝食ではなく、ホセに会ったら渡すためだ。
 お礼に手料理というジゼルの案を実行したのだ。
 昨日は自分のための料理だったけれど、案外と出来はよかった。
 それで自信がついたのだ。
 でも、出来上がったものをいそいそと本人に持っていくのは気が引けた。
 だから、いつものようにドルムの旧時代の坑道跡に潜ることにした。
 朝の山道には誰もおらず、ひっそりと静まりかえっていて何だか不気味だ。
 坑道に入ると不気味さはさらに増したが、戦いを控えた興奮がわずかに勝った。
 それにジリジリ照りつけ始めた夏の暑さを避けるには、ここの方が快適だ。
 何度か巡って休憩を入れようとすると、王族の方が歩いてきた。
 「紹介されて会いに来ました」
 よく見ればあたしと同じくらいの年齢だ。
 王家の方とは数人お会いしたが、この人は初めてだった。
 「アンガスです。よろしくね」
 そう言って少し微笑んだ表情を見て、何となくホセを思いだした。
 ラフな髪型とか唇とか、つぶさに観察すれば似ている。
 目つきは彼ほど鋭くないけれど。
 そこまで考えてふるふるっと小さく首を振る。
 なぜあたしはホセのことを考えているのだろう。
 「スカーレット・ロスです。よろしくお願いします、アンガス王子」
 少し立ち話をしてアンガスは軽く手を振りながら去っていった。
 そこに声をかけてきたのは、収穫祭の日にも会ったドミンゴだ。
 「楽しそうに話してたね」
 「ロナーティさん、見てたんですか」
 「彼が女の子と話してるのは珍しいからね」
 「そうなんですか?」
 あたしが訊くと、ドミンゴ・ロナーティは顔を曇らせた。
 「君、王家の掟を知ってるかい?」
 「え?」
 「知らないみたいだね。あのね、王家には結婚に関する掟があるんだ」
 いきなり出た結婚という言葉が、自分と結びつかなくて困惑する。
 「王族はこの土地で生まれた者としか結婚できない。
  僕の言っている意味、わかる?」
 数秒の後にあたしは理解した。
 あたしとアンガスがもし恋愛関係になったとしても結婚は許されない。
 つまり別れるしかない。彼が言うのはそういうことだ。
 「まだ彼とは知り合ったばかりですよ」
 心なしか重くなった雰囲気を打ち消すように明るい声を出した。
 「そうだね。それに例外もあるし……時が解決するかもしれないしね」
 例外というのが何かわからなかった。
 しかし、その後の言葉に少し不穏な空気があったので、もう何も訊けなかった。
 「丁寧に教えてくれてありがとうございます。覚えておきます」
 それだけ言って、あたしは坑道の奥に向かった。
 途中でブラウン君に会う。
 「あれ、一人? 今ヒマ?」
 「ごめん、このまま探索したいから」
 我ながら手酷くあしらったと思う。でも、一人になりたかった。
 ロナーティさんが言葉の端々に滲ませていた空気が乗り移ったようだ。
 アンガス・ブヴァールは何を考えていたのだろう。
 紹介した人も、誰だかわからないが無責任だ。
 異性の紹介とはとどのつまりは見合いだ。
 この国の者なら王家の掟を知らないはずはない。
 そしてあたしが移住してきた人間であることも知っているはずだ。
 それなのにどうして彼をあたしに引き合わせたのだろう。
 ふいにアンガスが纏っていた雰囲気を思い出した。
 彼の兄の一人は騎士で、アンテルムという名だ。
 アンテルムは控えめだが騎士としての誇りを持っているように思えた。
 もう一人の兄は優しそうという印象しか覚えていない。
 しかし、末弟のアンガスは飄々として掴みどころが無く、道化のようだ。
 顔はなかなか甘いマスクだと思うし、女の子が放っておかないだろう。
 それなのに女の子と立ち話をしているのは珍しいらしい。
 あたしは謀られたのではないだろうか。
 疑いを抱きながら探索していた時だ。
 「スカーレットさん、どうかした?」
 声の主はホセだった。
 「別に、何でもない。それより、この前の応援のお礼」
 ムニエルを渡すと、彼は目を輝かせた。その表情は少年のように見えた。
 「こんな美味しそうなのもらっちゃっていいの? ありがとう。
  これ、もしかして、君の手作り?」
 改めて訊かれると答えるのは照れくさい。
 「そう」
 「とても嬉しいよ、ありがとう!」
 「じゃあ、あたし探索続けるから」
 重ねてお礼を言われて恥ずかしくなって、つい冷たく言ってしまう。
 だけど彼は気にした様子も無い。
 「気をつけてね」
 何だかドキドキしている。
 あたしは後ろを振り返ることなく坑道に戻った。

*****

改めまして、紅月です。
キングマトラはもちろん狙っていましたが、まさか300ノサ超えを釣って釣り名人が取れるとは思っていませんでした。
大物を釣るにはチカラもそれなりに必要だったはずですが、本当に運が良かったとしか言えません。
そして、アンガス王子の出現とともにドラマも始まります。
アンガス王子は別の設定のキャラなら視野に入った人です。
が、スカーレットは元旅人というのを置いても彼とは合わないと思ったので、この後も1回しか絡みません。
ドミンゴさんが割って入るように話しかけに来たがために、後々少女漫画展開が起きます。

0 件のコメント:

コメントを投稿