2018/02/01

エルネア王国の日々 192年24日まで その4

※プレイヤーキャラ視点の一人称小説という体です。
ほかの方のオスキツ国初期住民とイメージが違ってもご容赦ください。



 192年10日
 そろそろ職業体験の期限が近づいている。
 その事に気づいて、あたしは目的地を遺跡からゲーナの森へ変更した。
 昨日は坑道でかなり良質な斧が手に入ってしまったが、森に行くならやはり剣だ。
 手の届く範囲で最も良質な剣を、できるだけ強化して挑むことにした。
 もちろん薬類も用意充分だ。
 先に酒場に顔を出す。
 「カティさん、おはようございます」
 「あら、スカーレット、おはよう」
 「朝ご飯、一緒にどうです?」
 「いいよ、下に行こうか」
 あたしはサラダとフライを、カティはスープを頼み、ほっと一息つく。
 「実はアタシ、今日誕生日だから、誰かと一緒にご飯食べたかったんだよね」
 「おめでとうございます! ところで、カティさん…」
 「前も言ったけど、カティでいいよ、敬語も抜き」
 「じゃあ、カティ、この国に住む気は無い?」
 「ああ、そういえばスカーレットもここに来たのは最近なんだっけ?」
 「うん」
 「アタシなんかより他に友だちいないの?」
 「違う、そういうのじゃないよ」
 棘のある言い方にムッとしたが、しかしそう思われても仕方ない。
 実際、女性で同年代の友人は少なかった。
 「旅人には旅人の事情がある。それはスカーレットもわかってるでしょ?
  旅を止めるのにだってそれなりの理由がいることも」
 そう言われると返す言葉も無い。
 小さな声でぽつりとつぶやく。
 「わかってる。あたしがジゼルに何を迫ったのかも」
 カティはそれを聞き漏らさなかった。
 「もしかして、前にもこういうことを旅人に言ったの?」
 平静を装ってうなずいた。
 「今はこの国で暮らしてる」
 カティは呆れたようにあたしを眺め、さらに見極めるように見つめた。
 そしてしばらく何か考えていたが、一つ息を吐くと言った。
 「この王国、食べ物も豊かだし、気候も過ごしやすい。
  外国と争ったりもしてないし、図書館も学校も充実してる。
  こんな国はなかなか無いんだよね。おまけに根無し草でも歓迎してくれる。
  スカーレットのお陰で新しい視点ができそうね」
 あたしがキョトンとしていると、彼女は何でもないと言うように首を振った。
 「さっきはちょっとひどい言い方しちゃったね、ごめん」
 「いいよ、気にしないで」
 「仲直りの印に今日は奢らせて」
 「…うん、わかった」
 そんなこんなで、元気にゲーナの森へやって来たが、ここは本当に暗い。
 それでも騎士隊の鎧を着込んで意気揚々と進んでいった。
 罠は一つでも掛かると体力をかなり持っていかれるから、できるだけ罠避けを使う。
 奥に進むまで、思ったほどの苦戦は強いられなかった。
 が、最奥部に辿り着く直前にやたら火力の高い魔獣に襲われた。
 撃退自体は難しくなかったものの、ふいに怖くなった。
 多少珍しい雑魚とはいえ、このレベルを超える相手が最深部にいるはずだ。
 精一杯にしては中途半端なこの装備で勝てるだろうか。
 不安になる暇もなくそこにはすぐに着いてしまった。
 森色のオークのような戦士が2体、手前には雑魚が3体。
 戦士たちの攻撃は図体のわりに速く、刀身で受け止めるしかない。
 しかも、受けてみると予想以上に重かった。
 負けるかもしれない、いや、あと一撃受けたら確実にやられる!
 その時、白い光があたしを包み込んだ。
 体が浮き上がるような感覚があり、剣が勝手に振るわれる。
 気づいた時にはあたしは舞うように戦士に斬りつけ、地面に叩き伏せていた。
 戦利品を持って森の入口へおぼつかない足取りで帰る。
 あたしは本当に勝ったのだろうかと何度も自問しながら。
 その答えはその手の新たな剣だった。
 その剣こそが勝利の証、それも昨日手に入れた斧と同じくらい造作の良いものだ。
 よく見ると鍔の裏側にビーストセイバーと彫ってある。
 これは夢なのではないだろうか。
 現実はあの戦士たちの前に傷つき斃れ、この走馬灯を見ているのだ…。
 今日はもう森の探索は止めよう。
 体験報告をしたら最初の予定通りに遺跡にでも行こう。
 街に戻ると、ドミンゴが向こうからやって来るのが見えた。
 昨日のことを思い出して思わず目を逸らしてしまう。
 「ロスさん、やっと見つけた。ずいぶん捜したよ」
 「ごめんなさい」
 「いや、ごめん、そんなつもりで言ったんじゃないんだ。
  それに謝るのは僕の方だよ。昨日の僕は少し無神経だったね。
  あの王子が掟を知りながら君と話しているのを見て、少し、苛ついていたんだ。
  僕だってスカーレットさんともっと親しくなりたいのにってね」
 「えっ? あたしたち、友だちじゃないですか」
 「友だち、か」
 「はい」
 「本当にそれだけ?」
 「え?」
 「ううん、今のは忘れて。友だちになってくれてありがとう」
 「どういたしまして」
 「何だか変だね、このやり取り」
 「そうだね」
 可笑しくなって頬が緩む。
 「やっと笑ってくれたね。スカーレットさんは笑顔が似合うよ」
 「ちょっと、照れくさいこと言わないでよ」
 「あ、動かないで」
 「えっ?」
 次の瞬間、ドミンゴの指が髪に触れる。
 「はい、取れた。葉っぱの切れ端」
 「…ありがとう」
 「またおしゃべりしようね、バイバイ」
 彼を見送ると、また別の声が後ろから掛かった。
 「スカーレットさん!」
 「ホセ」
 「あのね、今日はスカーレットさんに渡したいものがあるんだ」
 そう言ってホセは鞄からいむぐるみを取り出した。
 「はい、どうぞ」
 「えっ、そんな可愛いもの、気持ちは嬉しいけど似合わないよ」
 「そう? そんなことないと思うけど…。
  僕はさ、さっき楽しそうに喋ってた男の人みたいに面白い話はできない。
  でも、スカーレットさんの笑顔を見たいんだ。
  可愛いものって、見ると癒やされるでしょ?
  だから、これ見ていっぱい笑ってくれるといいなって思ったんだ」
 笑顔という単語がドミンゴの言葉と重なって胸を打つ。
 「いつも、目つきがきついって言われてきたあたしなのに。
  あたしの笑顔が見たいなんて、変な人たち!」
 そう言えば、同じようなセリフを前にも言われた気がする。
 その記憶は近寄ったと思ったら指をすり抜けてすっと消えてしまった。
 「でも、そんなに考えてくれてたなんて知らなかった。
  ありがとう。それ、ちょうだい、受け取るよ」
 彼の目に涙がじわりと浮かぶ。
 「良かったあ。受け取ってくれないと思って焦ったよ。
  あ、言い忘れたけど、これ、この前の料理のお礼も兼ねてるんだ。
  …っていうか、元々はそれだけのつもりだったんだけど…。
  さっきのは焦って理由探しちゃったけど、あ、でも出任せとかじゃないからね」
 あたしはホセの慌てぶりに微笑んだ。
 「ありがとう」
 すると彼は照れて何も言わなくなってしまった。
 その後は街を回って報告をし、旧市街跡と旧市街の遺跡に行った。
 肉弾戦でない武器は正直、今までに全く馴染みがなく扱いづらかった。
 確かに使い慣れた剣を使っていけないことはなかった。
 しかし、敵に合わせた武器を使うなら、武器の腕もそれ以外の能力も伸びるだろう。
 それがあたしの信条だ。
 それに魔銃でしか歯が立たない相手と今後戦う可能性もある。
 得物は国から支給されたままのものだったが、遺跡の敵相手でも有利に立ち回れた。
 帰りは市場に寄り、ケーキキットを買って帰った。
 明日は確かホセとジゼルの誕生日だ。
 あたしに何かできるならしてあげたい。
 朝からすぐにケーキを焼けるように仕込み終わると、一日の疲れがどっと出た。
 あたしは深い眠りに落ちていった。

*****

改めまして、紅月です。
クールキャラはどこへやらなスカーレットの、たぶん一番長い日です。
負けた戦闘をやり直せるアイテムだったかを使ったため、表現に困りました。
最奥手前のやたら火力が高い魔獣というのは恐らくラペッサでしょう。
ビーストセイバーを得たこの時のことは本当に胸熱な出来事でした。
ドミンゴは性格通りきちょうめんに訪問して来るため、ちょっと格好いいと思っていた時期はともかく、ホセに決めてからは恐怖の対象でした。
文章でうまく伝わっているかはわかりませんが、ウェットで少し盲目的で、ちょっと踏み込んだ発言もするけどそれが多少病的にも見えてしまう、ただの不器用な男性というイメージになっています。
ドラマの振られ役ですね、顔も良いし性格も本命より勤勉なことが多いのに、なぜかうまくいかないパターン。
そして、ホセが初めてプレゼントをくれた日です、めでたい!
クールというのが、本来の性格ではなく周りから与えられた評価だという設定に落ち着いてきています。

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