2018/02/07

エルネア王国の日々 192年24日まで その10

※プレイヤーキャラ視点の一人称小説という体です。
ほかの方のオスキツ国初期住民とイメージが違ってもご容赦ください。



 192年21日
 いよいよ今日は準決勝の試合だ。
 これに勝てば入隊枠は確保できる。
 あたしにとっても相手にとっても、運命を決する重要な試合だ。
 相手はテルフォード家のエリス夫人だ。
 テルフォード家の人間と面識はないが、美男美女の家系として有名らしい。
 エリスは各種能力が高い水準で安定した隙のない相手だ。
 今回の選抜トーナメントには娘のジュニアータも出場している。
 少し尖った能力だが、母親に似て安定感も兼ね備えており同じく勝ち残っている。
 チカラこそ高くないが、ハヤサで相手を翻弄する戦法とのこと。
 あたしは訓練のおかげで夫人を上回る水準に達している。
 しかし、母子揃って準決勝まで進むような家柄相手に油断はできない。
 それでも、あたしには生死の境から持ち帰ったビーストセイバーがある。
 騎士になってゲーナの森に行っても、あの出来事だけは忘れないだろう。
 森に行く時はいつも携えて強化を重ねているこの剣。
 このビーストセイバーがあたしを高みに連れて行ってくれる。
 それに、あたしには応援してくれる人がいる。
 ここに来る前は一人だったけれど、今は違う。
 森でのウォーミングアップ中も、ホセが遠くから見守ってくれていた。
 ふと思いついて、あたしは彼が森から出て来る前に姿を隠した。
 農場でペピを植えていると、足音が近づいてきた。
 あたしは彼が来てくれたと思って振り返ったが、そこにいたのはドミンゴだった。
 「やあ、香水を届けに来たよ」
 吹っ切れたような笑顔でこちらに微笑む。
 あたしも何だか表情が晴れやかになる。
 少し前までは、彼を怖がっていた。
 でも、昨日彼の心がわかった気がする。
 彼は少し自信に欠けて、焦ってあたしとの距離を踏み違えたのだ。
 これからは友だちと割りきった関係でいる限り仲良くできるだろう。
 「良かったら使って?」
 「あ、抜け駆けするなよ! 彼女にはこっちの方が似合う!」
 他にも男性が数人やって来てあたしに話しかけてくる。
 「香水とかそういうのは受け取りませんから」
 揉みくちゃにされそうなのをどうにか抜け出すと、ホセが困ったように笑っていた。
 「本当に人気者だなあ」
 「からかわないでよ」
 「明日、デートどうかな? 準決勝と決勝の中日だけど」
 「それってあたしが決勝に進むの前提だよね」
 「だって今日も決勝も勝つんでしょ?」
 そう言って屈託のない笑顔を見せられると、あたしは弱いのだ。
 「さっきまで気合い入れ直して不安を拭ってたのがバカみたい。あたしは勝つ。
  今日勝って、明日は楽しんで、優勝もする」
 「そういう自信があれば、スカーレットちゃんはきっと勝てるよ」
 何だかんだ言っても、彼はあたしのことをよく見ている。
 あたしは肩の力を抜いて言った。
 「…まあ、決勝よりも今日の方が不安なんだ。
  多分だけど、決勝で当たる相手より今日の相手の方が強いんだよね。
  戦闘経験も年の功って部分があるから」
 「ああ、エリス・テルフォードさんだっけ、確かに強そうな人だよね。
  でも大丈夫だよ。自信を持ってぶつかっていけばいいと思う。
  お守りもたくさん持ってるでしょ?
  不安ならそれ使っていいんだし、僕も応援してるよ」
 「ありがとう、ホセ。あたしもね、自分でも考えてた。
  不安を抱えてちゃ動きが鈍る。あたしには付いていてくれる人がいるって。
  でも、人からちゃんと言葉をもらえること以上に心強いことはないよ」
 そこで思い出して付け加えた。
 「あ、それと、昨日虹色の花を見つけた。それに、幸運の塔で光の花も!」
 彼があんぐりと口を開けた。
 「うそぉっ!? 虹色の花も珍しいけど、光の花まで!?
  スカーレットちゃんって、もう何ていうか、すごいよ、ほんとに」
 「あたしもびっくりだよ。滝でもワフ虫が草に止まってるのばっかりだったし。
  ワフ虫だと思ったら違った。すごく綺麗だった。
  持ち帰ってみたけど、やっぱり光が弱くなるみたい」
 ホセはその後もしばらくあたしの話を聞いてくれた。
 試合に向かう前にお菓子を渡そうとしたが、探索に疲れて間食してしまったらしい。
 「がんばれー」
 その声を聞きながらあたしは練兵場に向かった。
 お守りは彼の応援と虹色の花だ。
 決着はあっさりとついた。
 あたしは勝った。これで来年の騎士隊入隊は確定だ。
 ホセには会えなかったけれど、ジゼルに勝利報告をした。
 「そういえば昼間、エナの子の男性があなたを探してたわ」
 「ああ、会ったよ。彼も女の子に追い回されてるだろうに、ね。
  でもエナの子効果ってすごい。
  男の人から声掛けられまくってヘトヘト」
 「スカーレットさんには人を惹きつける魅力があるもの、当然よ」
 「ううん、そんなことない。
  ずっと前に紹介されたって会ったきりになってたアンガス王子に声掛けられる」
 「そうなの。でも、自分で気づいてないだけで、あなたにはすごく魅力があるわよ」
 「あたしの話はもういいよ。それより…」
 あたしは昼間会ったドミンゴの顔を思い浮かべた。
 ああ見えてきちょうめんで、自分で自分を傷つけてストレスを抱え込んでしまう人。
 「そのエナの子の人、ドミンゴさんってあたしの友だちなんだ。会ってみない?」
 あたしはドミンゴのことを簡単に説明した。
 「わたしが年上だけど、ロナーティさんは気にしないかしら?」
 「むしろよく気がきくから嬉しいかも」
 「うーん、でもあなたがそこまで言うなら、行ってみるわ」
 ジゼルは歩き出してもまだ悩んでいるようだった。
 それでも明日にでも会いに行くつもりはあるようだ。
 あたしは運を天に任せることにした。

 192年22日
 今日は朝からよく晴れた。
 あたしは新しい料理ガゾパスタに挑戦した。
 自分は余っていたハニークッキーを齧りながら、気分転換に遺跡へ行く。
 魔銃は相変わらず威力の低いものだが、スキルは確実に身に付いている。
 デートも楽しかったし、腕によりをかけたガゾパスタも喜んでもらえた。
 「この前のホットチョコレートも美味しかったし、嬉しいよ。
  …掲示板のゴシップ欄にスカーレットちゃんの名前出てるの知ってる?」
 「動物に人気、でしょ? あれはあたしもよくわからないんだよね。
  モフの毛刈り時々する程度で、ラダに触れもしないのに…」
 「違う違う、モテクイーンとみんなの人気者の欄」
 そう言われて確認して、あたしは初めて気がついた。
 「ええーっ? めちゃくちゃ声掛けられるとは思ってたけど、そこまでいってたんだ」
 「うれしくないの?」
 「嬉しいか嬉しくないかって言われたらうれしいけど…。
  あまり追い掛け回されても困る。そっとしておいて欲しいんだけど。
  ホセはあたしのことだけどうれしいの?」
 ホセはもどかしそうに首を回した。
 「恋人に魅力があるって言われてるわけで誇らしいけど…難しいな。
  なんというか、誰とも会わないでって言いそうになるよ」
 「大丈夫だよ、話すなって言われると困るけど、浮気なんかしない。
  …あたしも複雑だけど、一つ良いこともあるんだ」
 「なに?」
 「ほら、あたし、ここの出身じゃないでしょ?
  でも入国してすぐに騎兵選抜に出て騎士になろうとなんかして。
  騎士ってその国の顔みたいな面があるから、よそ者としてはどうかと思ってた。
  だから釣り大会も頑張ったんだ。
  がむしゃらに特訓してきたのは、試合に勝ちたかったからだけじゃないんだ。
  この国に受け入れられて認められたかった。
  それがエナの子コンテストで叶えられた気がするんだ」
 それはあたしの本心だった。
 ホセは静かに聞いてくれた。
 エルネア王国にやっと根が下ろせたと思えたら、友だちもぐんと増えた。
 あたしは何があっても一生ここで生きていく。

*****

改めまして、紅月です。
ドミンゴとの関係が明確に割り切れたスカーレット、そして恋人がエナの子でモテても余裕を持てるようになったホセ。
こんなに順風満帆で良いのかと疑ってしまいます。
だからこそ、この辺りで一つの区切りがついた気がしてプレイしなくなってしまったのかもしれませんが。

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