ほかの方のオスキツ国初期住民とイメージが違ってもご容赦ください。
192年11日
朝、予定通りにケーキを焼いて、あたしは遺跡に向かった。
少なくともジゼルは時折遺跡の探索をしているようだから、会うこともあるだろう。
遺跡の探索が一段落して休憩していると、ブラウン君とドミンゴさんが見えた。
「こんにちは」
「やあ。僕たち、これから釣りにでも行こうと思うんだけど、一緒にどう?」
ドミンゴが気さくに話しかけてくる。
「ごめん。今は自分を鍛えることに集中したいから」
「騎士を目指してるんだっけ?」
「うん」
「試合に負けられないもんね。精が出るのも当然かな」
「うん、それもあるけど、自分が強くなってるって実感できて楽しいから」
ブラウンも興奮したように会話に入ってきた。
「それはオレもわかるぜ。
何度も攻撃しないと倒せなかった敵が一撃になると嬉しいんだよな」
「彼はまだ若いけど、こう見えて強さは僕と互角くらいだからね」
「二人とも山岳兵だし、親も期待してるんでしょ?」
「ブラウン君は次男坊だからその表現は当たらないんじゃないかな」
「え、そうなんだ」
「オレはいずれ一般人になるよ、結婚したらな。
それより早く釣り行こうぜ」
「ははは、行くか」
「行ってらっしゃい」
遺跡を訪れる人はとても少なかった。
夕方になってようやくちらほらとまばらな人影が現れたが、ジゼルは来なかった。
夜になるとあたしは街で大切な友人たちを捜した。
先にホセが見つかった。
「ホセ!」
「あ、スカーレットさん、今日は会えないと思ってたよ」
「今日はあたしからちゃんと捜した。だって今日は大事な日でしょ」
「えっ」
「誕生日おめでとう、ホセ」
「ボワのケーキ! ありがとう、祝ってもらえた上にケーキまで……すごく嬉しいよ」
彼の目にうるうると涙が滲んだ。
「とっても美味しそうだ。帰ったら味わって食べるよ。
僕、この日のことを一生忘れないと思う」
「お、大げさだなあ。あ、あと、今回のお礼はいらない。
誕生日をお祝いするのは当然だから」
「本当にありがとう」
その後、ジゼルにも会って誕生日を祝ったが、プレゼントは断られた。
「ごめんなさい、さっきウィアラさんにご馳走してもらっちゃったの。
受け取っても食べられなくて無駄になっちゃうわ」
192年12日
気づけば次の試合も近づいている。
弁当を作りながら、今日の探索地を考える。
当日は剣で戦う予定で得物の強化も進めているが、技はまだ中途半端だ。
一方、坑道でチカラを鍛えたいという思いもある。
迷った末に、剣の腕を上げに森へ行くことにした。
一緒にハヤサを鍛えれば、相手に反撃の隙を与えにくくなるだろう。
それに、強化した得物の威力を見る良い機会にもすればいい。
森に近づいた時、懐かしい香りがした。
見ると、出てきた国と同じ花が咲いていた。
あたしは4年前の夏至の日、この花を摘んでいて土手から落ちてしまった。
自力で上がれずに途方に暮れていると、一人の騎士が通りすがった。
彼はすぐに事情を呑み込み、あたしを引き上げてくれた。
抱き上げられた時に酒の匂いが鼻を突いたから、だらしない酒飲みだったのだろう。
しかし、子供だったあたしは、両親から嗅ぐことのない大人の匂いだと思った。
紋章の付いた鎧から、どこかの国の騎士だということはわかった。
じっと見ていると、頭の上から声が降ってきた。
「お嬢ちゃん、この模様が気になるのかい?」
「このよろい、すごくかっこいい」
「はは、騎士になれば毎日こういうのが着れるぞ。こんな風に剣も下げてな」
「でも、おんなのこはきしになれないよ?」
「むう、確かにこの国はそうかもしれんな。
けどな、世界は広いんだ。外国には女が剣を振るう国もたくさんあるんだぜ」
「いいなあ、あたしもきしになりたい。がいこくにいったらなれる?」
「ああ、なれるさ。ただし、強くなけりゃ騎士団には入れない」
「あたし、つよくなるもん!」
「威勢がいいね、その意気だ。けど、あんたよく見ると美人さんだな。
平和ににこにこ笑って暮らすのも悪くないと思うがね。
女の最上級の装いは、高価な鎧でも豪奢なドレスでもない、笑顔だからな。
そんな意地張った顔より、笑顔のほうが似合う」
彼の右手が伸びてきて、頭を撫でて子供扱いされるのかと思って、身を引いた。
しかし、彼はあたしの左手を取り、お姫さまにするように手の甲に口づけた。
「おっと、暗くなってきたぞ、日が落ちる前に帰りな」
いわゆる一期一会というやつで、それ以来、彼を見かけたことはない。
魔獣の森の探索結果は良好だった。
武器の威力は複数を相手取る魔法の火力不足に悩まされないほどだった。
ハヤサも着実に上がっており、満足のいく成果だ。
ただ一つ、スキルが身につかないことを除いては。
森に集まってきていたホセや山岳兵の友人たちと話をしても、気分は晴れなかった。
このままで次の試合、アナベラ・アレナスに勝てるだろうか。
相手は壮年の女性で経験もあたしより豊富なはずだ。
あたしは焦り始めていた。
*****
改めまして、紅月です。
ホセとジゼルの誕生日なのに特に盛り上がりません。
スカーレットの過去が明らかになります。
恐らく成り上がりの騎士で、職務もそこそこに昼間から酒場に行くタイプの男性が、大人の男の人として逞しく見えたのでしょう。
スカーレットの父親はもやしとまではいかなくともひょろっとした人だと思っています。
そして騎士を志すきっかけになったこの男性はなんとホセと似ているという、ご都合主義な設定です。
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