2018/02/04

エルネア王国の日々 192年24日まで その7

※プレイヤーキャラ視点の一人称小説という体です。
ほかの方のオスキツ国初期住民とイメージが違ってもご容赦ください。



 193年15日
 試合の日、あたしはお昼ご飯を用意して坑道に向かった。
 時間のある朝の内に体を慣らしておこうと考えたのだ。
 朝早くなら山岳兵に会うこともあるまい。
 その予想は当たり、あたしは一人静かに旧時代の坑道跡で戦闘を繰り広げた。
 昼前に切り上げ、酒場に向かおうとした時、ちょっとした事件が起こった。
 ドミンゴとその後ろからホセが近づいてきたのだ。
 ドミンゴはまっすぐにあたしを見つめた。
 「ねえ、今から少し時間あるかい? 採取か釣りでも一緒にどう?」
 あたしは彼の視線に少し怯んで口ごもった。
 すると、やっと追いついたホセがあたしの前に立ち、ドミンゴに言い放った。
 「やめてください。彼女は今日試合があるんです。
  あなたと出かける暇なんて無いですよ」
 あたしは彼の陰で小さく頷いた。
 ドミンゴは悲しげに目を伏せ、もと来た方向へ行ってしまった。
 「ホセ、ありがとう」
 彼の背が角を曲がって見えなくなると、ホセはやっと大きく息を吐いた。
 「我ながら大胆なことをしちゃったなあ」
 「ドミンゴさん、嫌いになりたくないのに、怖い」
 「大丈夫だよ、僕ができるだけ傍にいて、さっきみたいに守ってあげる」
 「実力はあたしが上だと思うんだけどな。
  魔獣より友人に怯えるなんて変だね、どうかしてる」
 「変じゃないよ。女性が男を怖いと思うのは当たり前だと思う。
  だけど、君は一人じゃない。スカーレットちゃんには僕がついてる」
 「…ちゃん付けはやめてってば。呼びすてでいいよ」
 「いいじゃない、可愛いんだから」
 「可愛いとか柄じゃないからっ」
 「おばあちゃんになってもスカーレットちゃんって呼んであげるからね」
 「もうっ」
 「今日の試合、頑張ってね」
 ふいに真面目モードに戻られるとこちらが困ってしまう。
 「うん、もちろんベストを尽くすよ」
 「それでさ、もし良ければなんだけど、明日ちょっとどこかで羽を伸ばさない?」
 「それってデート?」
 「う、うん」
 「どうしようかな…休日だしね」
 「君が楽しめるように努力はするよ」
 「決めた。次の試合も数日は空くし、デート行こう!」
 「誘っておいてあれだけど、無理してない? 本当にいい?」
 「大丈夫。それに、あたしにとってもホセと過ごす時間は大事だから。
  友だちの時から、まだ二人でゆっくり出かけたことないし。
  幸運の塔に連行された時くらいじゃない?」
 「連行ってひどいなあ」
 あたしたちはデートの約束を確認して別れた。
 その後酒場では、教えてもらった通りに作ったポトとペピの炒め物を披露した。
 そして暇つぶしに木造橋を通りかかると、しばらく見かけなかった顔があった。
 「カティ!」
 向こうも釣りの手を止めてこちらを見返す。
 「スカーレットじゃない、久しぶり。
  言われたことを真剣に考えてみて、帰化することに決めたよ」
 「嬉しいけど、本当に良かった?
  あの時はあたしのわがままみたいなこと言っちゃったのに」
 「気にしない! アタシがここにいたいからいるの。
  それにしても全然会わなかったけど、どこにいたの?」
 「探索してた、騎士選抜トーナメントで勝つために」
 「ああ、トーナメントに出てるんだ。試合はいつなの?」
 「今日、この後」
 「えっ、あと1刻くらいじゃない! がんばって、応援する!」
 「ありがとう。あたし、そろそろ行くね」
 「うん、良い報告待ってるよ」
 そして夕方の試合は、あたしの完勝に終わった。
 「アレナスさん、相手ありがとうございました」
 「こちらこそありがとう。あなた若いのに強いわね」
 お守りも使ったとはいえ、さすがに準備に念を入れすぎたようだ。
 それでも負けるよりもずっといい気分だった。

 192年16日
 今朝はいつもより心地よく目覚めることができた。
 魔銃を片手に遺跡を散歩する。
 これだけは入国時に支給された武器を強化したまま使っている。
 それでも探索を許可されている範囲はこの得物で充分通用する。
 昼前に切り上げてウィアラさんの酒場に行く。
 「あら、昨日持ってきてくれた材料を使って新作を作ったところよ。
  ぜひ食べていってね」
 「ありがとうございます。うわあ、いい匂い」
 「ソテードベラス、グァバメキア料理よ。
  それにしても今日はいつになくご機嫌ね」
 浮き立つ心を抑えているはずなのに、バレてしまったようだ。
 「あ、ホセと、デートなんです」
 「そうなの。順調に関係を育んでいるのね。
  わたしが思った通り、この国にすぐ馴染んでくれてよかったわ」
 「恋人と国に馴染むことと関係あるんですか?」
 「大ありよ!
  友人も大事だけど、パートナーの存在はその土地との距離を縮める近道なの」
 「そんなものですか」
 「そうよ。そろそろ待ち合わせの時間なんじゃない?」
 あたしは街門広場に向かった。ホセもすぐにやって来た。
 「こうして二人で待ち合わせって照れるね」
 「でも、ちょっとうれしい。じゃあ、行こうか」
 「え、行くって、どこへ?」
 「内緒」
 あたしは意味ありげに言って、先に立って歩きだした。
 着いた先は幸運の塔だ。そばに生えている木に触れながら話した。
 「ここで告白してくれたよね。初めてのことだったけど、嬉しかった。
  あたし、育った環境がいろいろあって、人との接し方がわからなくて。
  だから、今でも夢なんじゃないかって思う」
 「夢じゃないよ。僕たちは今恋人で、ここでデートしてる」
 「そうだね」
 初めてのデートをするあたしたちは微妙な距離で立っている。
 「この国に来るまで、他人は他人、深く関わろうなんて思いもしなかった。
  達観してクールだなんて言われるならそれでいいって。
  でも、それじゃいけない気がする。
  だから、友だちやホセともっと話して、もっと知りたい」
 「僕もスカーレットちゃんのことをもっと知りたいよ」
 「今度デートする時も、こうやって色々話したい」
 「そうだね、いっぱい喋って色々な場所に二人で行こう。約束だよ」
 空が夕暮れに染まる頃、あたしたちは帰ることにした。

 192年17日
 デートの翌日、あたしは朝から遺跡に籠もった。
 武器は量産品だが銃の扱いにもかなり慣れた。
 この調子ならココロの鍛錬も今日で一段落つけられそうだと思ったのだ。
 昼頃からホセも近辺を探索しているようだった。
 しかし探索は一人がよいと言ったことを覚えているようで、近づいては来なかった。
 探索を切り上げたのは二人とも夜遅くの禁令直前だった。
 先に出てきたあたしがホセを待っていると、騎士隊の鎧を来た男性が歩いてきた。
 「こんばんは。スカーレットさん」
 「アンテルム王子、こんばんは。今日はこちらで探索でしたか」
 「うん。ところで、弟が、アンガスが迷惑をかけてはいないかい?」
 「アンガス王子とは一度しか喋ったことはありません」
 「そうかい? 前にスカーレットさんを紹介されたと言ってたからてっきり…」
 「確かにそうですが、あれ以来会っていません」
 「もしかしたら案外仲良くなっているかもと期待したんだけどね…。
  私はそろそろ帰らないと。
  暗くなってきたけど、一人で大丈夫かな? 途中まで送って行くことはできるよ」
 「ありがとうございます。でも、人を待っているので」
 ちょうどそこにホセが戻ってきた。
 「スカーレットちゃん!」
 「おっと、邪魔したね。また」
 ホセはあたしの傍まで来てふうっと息を吐いた。
 「もしかして待たせちゃった?」
 「ううん、あたしもさっき切り上げたばっかり」
 「じゃあ、帰ろうか。ねえ、さっきのアンテルム王子だよね?」
 「そうだよ」
 「彼の鎧姿って格好いいよね。
  紳士だし、あれでまだ恋人すらいないってもったいないよなあ」
 「でも女性にモテるのはティム王子だって友だちが言ってた」
 「そうなの?」
 「甘いマスクに少しラフな髪型。
  少し優しくて趣味や仕事をほどほどに楽しめる、ちょっぴり傷つきやすい性格。
  女はこういう条件に弱いって」
 「へえ。スカーレットちゃんもそういうのが好きなの?」
 「えっ、あたし? うーん、考えたこともなかったなあ。
  特に好きかって訊かれるとどうだろう、まあ、うん、無難な感じはする」
 「無難って、あはは」
 「だって、別に何とも思わないから。
  例えば告白されたりしたら断る理由は無いかなって程度」
 途端にホセの顔が曇り、あたしはしまったと思う。
 「…もしかして僕と付き合ったのも、断る理由が無かったから?」
 感情をあらわに滲ませた声が彼の唇から漏れる。
 あたしは出来るだけきっぱりと言った。
 「違う。ホセはあたしを心配してくれた、応援してくれた。
  そこからあなたは、あたしにとって特別な存在になった。
  あたしは、あたしはホセの傍にいたいと思ってる」
 彼はしばらく目を背けたままだったが、やがて震える鼻声で言った。
 「ごめんね。僕、不安なんだ。
  デートの時に君が夢みたいって言ったけど、僕も同じ気持ちなんだ。
  スカーレットちゃんは本当は僕のことを大して好きじゃないかもなんてさ。
  馬鹿みたいに思うかもしれないけど、なかなか拭えないんだ」
 世界で一番哀しい風景の一部みたいに、あたしたちはしばらく突っ立っていた。
 導師居室がある魔銃師会まで並んで歩いたが、もう言葉はなかった。
 彼の不安は簡単に取り除けるものではない。
 けれど、あたしが何か行動して示さなければならないと思った。
 その時ふと頭に思い浮かんだことがあった。
 あたしはヤーノ市場へ足を向けた。

*****

改めまして、紅月です。
ホセがドミンゴを遮ったとか妄想以外の何物でもないんですが、状況的にこれはもうこう表現するしかないだろうと思いました。
あと、泣き虫さん推しもしつこいかなと思ったり。
でも、このキャラがなかなかいい具合に動いてくれるので、いつもホセは泣いていることになっちゃっています。
二人の仲に波があるように見せている一つの理由は、プレゼントを受け取ってもらえない時の保険です。
この頃はいろいろな人と絡んでその背景も考えるのがすごく楽しかった記憶があります。

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