2018/02/18

夜更け

彼の部屋はいつも明るい。
外が暗くなるに任せて作業を続ける私と違って、几帳面な人なのだ。
日が落ちてくるとカーテンを引いて部屋の電気を点ける。

彼がパソコンで資料を作っている間、私はベッドで本を読む。
音楽が彼のイヤホンから漏れ出ている。
「そんな大音量で聞いてだいじょうぶ?」
首を少し傾げてから、右耳だけイヤホンを外して振り向く。
「何か言った」
「イヤホン音漏れてる」
「ごめん」
「私はいいけど、ちょっと音大きすぎるんじゃない」
彼はぴんと来ないらしい。
こういう所はひどく鈍感だ。
「耳に悪いよ」
「じゃあ」と言って、彼は音量を下げて作業に戻る。
合間に時々ブラウザゲームを確認している。

1時間は経った頃、資料は完成した。
「お疲れさま」
「お腹すいた、コロッケ食べよう」
反射的に腕時計を見る。
夜の9時だ。
「買って来ようか」
「いい、行く」
一緒について行きたかったが、何も言わない。
彼は私と外出するのを嫌がるから。

彼の部屋で一人で待っていると変な気分になる。
ここは私が今いるべき場所で、でも私の場所ではない。
一人暮らし用の部屋なのに私には広すぎるように思える。
この部屋に二人でいることに慣れ過ぎているのだ。
栞代わりにページに引っ掛けていた指を外して、部屋を見回してみる。
家探しをする趣味は無いけれど、一人にされるとむずむずして気になってしまう。
絶対に手は出さない。
見ているだけなのに、まるでへそくりでも探しているような背徳感と罪悪感に襲われる。
玄関で鍵を開ける音がして
「ただいま」

彼が帰って来た。
コンビニの袋から取り出されたコロッケの匂いが漂ってくる。
「美味しそう」
「美味しい」
コロッケを食べている彼の方に手を置いて後ろから覗き込む。
「…食べる?」
「ううん」
お腹は空いていない。
ただ彼とくっついていたいだけだった。
「眠い」
彼の肩に頭を預ける。
「こら、ここで寝るんじゃない」
「え~じゃあベッドで寝る」
「おい、もっとあかん」
「ふふっ」
こうして平和な夜は更けていく。



***○。***○。***○。***○。


ずっと以前に1行だけ書きかけた小品を、大元になる設定だけ取って40分ほどで形にしたもの。
裏設定ほとんど無し。
タイトルは相変わらずセンス無し。
いっそタイトルにだけ1日掛けても良さそうな気もしてきます。
ただ今回の題はもしかするとほかの時間帯とシリーズ化も狙えるかもしれません。
また、名前を重視するわたしとしては、こういう小品で人物名を付けたくなかったり。
なぜなら気合を入れた作品で意味がある名前を付けようとした時、似た名前になるのは避けたいからです。

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